8月11日〜8月20日

読んだ本とか

東雅夫・編「妖怪文藝<巻之壱> モノノケ大合戦」小学館文庫、619円)。編者の東氏と京極夏彦氏の妖怪小説に関する対談から始まって、第一部は妖怪同士や妖怪vs人間の大合戦小説を古今の名品から5編。第二部は「文藝妖怪名鑑」と題して、妖怪を描いた小品を11本収録。表紙の絵もいいし、中のセレクトも楽しいし、妖怪小説のバリエーションをたっぷりと楽しめる、こんな有り難い本は滅多に無い。妖怪という存在の面白さと、妖怪を小説で扱う面白さの両方を一度に感じられる本だから、俺なんか、持ってるだけで顔が緩む。南條範夫「月は沈みぬ-越国妖怪譚」の恋に狂った妖怪達の情けない闘いぶりとか、藤原審爾「妖恋魔譚」の絡新婦vs人間の恋と闘争の両方を一度に描く凄まじさとか、石川淳「狐の生肝」の魔法使いみたいな坊主と狐の心理戦とか、入澤康夫「牛を殺すこと」という詩の牛系妖怪を包括するような怖さとか、小田仁二郎「からかさ神」の馬鹿馬鹿しさとか、今江祥智「雪女」の雪女の間の流行の話の恐ろしさというか可笑しさというかとか、一つ一つが、かつて夢中で妖怪図鑑のページをめくった時のようなワクワクを感じさせてくれる本。これは本当に面白い。

妖怪文芸 巻之1
東 雅夫編
小学館 (2005.9)
通常24時間以内に発送します。

秋本治こちら葛飾区亀有公園前派出所 146」集英社、390円)。大阪の笑いの基本を、子供の読者に教えるようなエピソードとか、アーチェリーと弓道の合同戦線の話とか、相変わらず面白い。外れが本当に少ない。一度、1巻から一気読みしたいのだけど、怖くてまだ実現せず。全巻部屋に置いてるから場所とってしょうがないけど、手放せない。そして新刊も買い続けている。

よしながふみ「こどもの体温」新書館、505円)。上手いなあ。最後に入ってるスケッチみたいな、単に子供を怒って、泣いちゃって、それを抱きしめるだけのネタが、何かたまんない。スキンシップみたいなことの描写が上手いんだよなあ。卑怯だなあ。ただ、女性描くときほど、徹底しない分、エピソードが温くて、そのヌルさが、良かったりモノ足らなかったり。そのあたりの、モヤモヤ感が出せることを含めて、大したもんだと思う。

こどもの体温
こどもの体温
posted with 簡単リンクくん at 2005. 8.24
よしなが ふみ著
新書館 (1998.8)
通常2??3日以内に発送します。

綾辻行人原作・佐々木倫子漫画「月館の殺人(上)」小学館、1000円)。期待はしてなかったけど、面白かった、良かった。何だかしらんがホッとした。綾辻さんの仕事に対して、何故か俺はいつも、ビクビクして読んで、面白いとホッとするのが我ながら不思議だが、そういう危うさは常につきまとう。黒澤清さんも同じか。まあ、タイトルからして舐めているので、多分大丈夫とは思ったのだけど、それにしても予想以上だった。佐々木倫子氏のある意味魔夜峰央に近い、描線とギャグの絡み具合が、トラベルミステリという形式とか、鉄道ヲタクの描写とかにピッタリだったというのも、この成功のポイントか。ボケと傍若無人を描かせたら本当に上手い。綾辻さんも明らかに、それを意識して原作を書いてるし。後は、ちゃんと完結することを祈るのみ。「上」とか書いてあるから、もう連載は終わってるのかと思いきや、この本の続きは、そのまま今月のIKKIで読めるそうで、ということは、続きが単行本になるのは随分先だし、次が「中」か「下」かも分からないのだった。「中1」「中2」とかなったりして。

月館の殺人 上
佐々木/倫子 / 綾辻/行人
小学館 (2005.8)
通常24時間以内に発送します。

京極夏彦「京極噺六儀集」(ぴあ、1600円)。京極夏彦伝統芸能のコラボ、つまり、最初の茂山狂言と組んで「豆腐小僧」「狐狗狸噺」の二作を上演した「妖怪狂言」と、春風亭小朝への「死に神 remix」、茂山狂言への「新・死に神」、神田山陽の講談「小豆洗い」を上演した「京極噺」での、京極さんが書いた分四本(「豆腐小僧」「狐狗狸噺」「新・死に神」「死に神 remix」)に、実際の上演台本を三本(「豆腐小僧」「狐狗狸噺」「新・死に神」)、それに、神田山陽が「巷説百物語・小豆あらい」を元に講談にした台本や、茂山千之丞の新作狂言に関するエッセイ、茂山千五郎のインタビューなどを収録した本。実演も全部生で見ているので、原稿段階と上演台本と舞台を追って見ることが出来て面白かった。しかし、問題は小朝師匠の「死に神 remix」で、実際に見た高座と、京極さんが書いた台本の間に差があり過ぎて驚いた。小朝師匠、台本の面白い部分を全部カットして、元の死神とほとんど変わらない噺として上演していたのだ。何だったんだろう。台本は、円朝が死神を作るにあたって参考にしたイタリアの話を上手く使って、しかも「あじゃらかもくれん」の呪文が何故効くのかを説明して、ふとんひっくり返しもOKにするなど、タイトル通り、死神リミックスになっているのに、そういう部分は全てカットした小朝師匠は、何考えたんだろう。謎だが、多分、これは解けるような種類の謎ではないのかもしれない。

京極噺六儀(だいほん)集
京極/夏彦??著
ぴあ (2005.8)
通常24時間以内に発送します。

▼あと、ハロルド作石BECK 1〜23」講談社)も読んだ。バンド版の「はじめの一歩」なのだった。でも鷹村さんはいないし、アメリカの話がちょっと鬱陶しいし、どうなんだろうなあ。つまらなくはないが、凄く面白いこともない。期待し過ぎたか。

見たライブとか

▼12日は、歌舞伎座の夜の部「法界坊」をAllAboutの担当の田中さんと見に行った。平成中村座でやった串田演出版の法界坊を歌舞伎座に持ってきたもの。なので、当然、法界坊は勘三郎。仕掛け沢山で、基本はコメディで、スピーディーに場面が変わって、歌舞伎の初心者を連れていくのに、これだけピッタリの芝居も少ないか。多少勘三郎の悪乗りが過ぎて、橋之助が笑い過ぎとか、七之助の野分姫が福助のパロディみたいだとか、お組が扇雀なんで、あそこまでモテる意味が分かりにくいとか、細かい部分で不満もあったけど、福助は思いの外突っ転ばし風が似合っていたし、演出のキレは良いし、残虐な場面をちゃんと残酷趣味で見せてくれるし、歌舞伎らしい歌舞伎を見せようという意欲が感じられて面白かった。宙乗りは、もう少ししつこくても良いと思う。歌舞伎初見の田中さんが大喜びしてたのは嬉しかった。面白いのを見たら面白いのだ。

▼13日は魚輪君と新宿明治安田生命ホール「SWAクリエイティブツアー」を見に行く。今回のテーマは「神田山陽」。どういうテーマだという感じだけど、9月から1年間イタリアに行ってしまう神田山陽の壮行会的な意味合い。なので、メンバー全員が神田山陽に何らかのかたちでちなんだ噺を演じる。演じた順序と演目は以下の通り。この5席を休憩無しで一気に。

喬太郎師匠の「存在証明」仕事でイタリアへ行ったというお父さんの家族の話。こういう、思い込みの強いオバサンは喬太郎師匠の得意技だな。見えてないというより、見たくないで目を背けている感じを表すのが上手い。マゾ風おじさんは良く演じてるけど、実はあまり得意でないのかもしれない。彦いち師匠の「拝啓、南の島より」は、南の島の名物オババがいる民宿と、南の島かぶれのお姉ちゃんの話。単に山陽さんが南の島によくいる、というところと、ネタの中に三代目を継ぐというエピソードが出てくるのが山陽テーマ。オババのキャラ立てが良かった。白鳥師匠の「幸せの黄色い干し芋」は、山陽さんの故郷北海道に行った事がない白鳥師匠がガイドブックだけで作った北海道の話。無駄に北海道観光ポイントが出てくるのがポイント。面白かった。最近、白鳥師匠に外れ無し。昇太師匠は、山陽師匠の得意ネタ「レモン」を講談としてやって、後半を新作落語のスタイルで別の物語に持っていくという、山陽さんを誰よりも知る昇太師匠ならではのネタ。講談部分のたどたどしさが笑う。そこも芸の内にしてしまうのが、昔からの昇太師匠の卑怯な得意技である。最後は山陽師匠。「花咲く旅路」は、裸で登場して、舞台上で着物を着るといういつもの逆パターンから入る。リリカルな話しを乱暴に演じるという、これも山陽師匠の得意パターンで「言葉が美しくなる水」を巡る旅立ちの話を熱演。新作って、こういう有り方が一番良いのかも、と思わせる、何ともアップトゥデイトな落語会だった。もしかしたら、何かが終わったのかもしれない、という感じもした。

▼16日は下北沢本多劇場に劇団健康久しぶりの復活公演「東京あたり」を、これも魚輪君と見に行く。もう本当にくだらない、80年代テイストだらけのシチュエーションコメディであった。仮装家族というネタが、既に80年代的な上に、メタ視点を中途半端に差し込んで笑いを増やしていくパターンとか、最終的には屁がテーマであったりすることとか、懐かしいといえば懐かしいけど、いまだかつてパターンとして認知されたことは無いから、知らない人にはいつの時代もウッカリ斬新に見えてしまうというような、そういう脚本を意識的に作り込んだ上で、メチャクチャ自虐的なオープニングで始める、その労力の割には効果が薄い無駄な屈折が泣ける。松尾スズキ宮藤官九郎を上手く使って、その象徴として奥菜恵にキレイの「ケガレのテーマ」を歌わせるオープニングムービーのとてつもない下らなさが、この芝居の全てと言っていいのかも。笑った笑った。全てのテーマとか伏線とかが、現れては消失させられる、ナイロンの舞台の逆をいくような構造は計算づくなのに、とても下らなくて、そういう芸当が、何となく考え無しに出来てしまうのがケラの凄い所だと思う。こんだけ下らないのを見たのも久しぶりで、何か、とても元気が出た。この芝居見て大笑いしたからこそ、次の日からの名古屋旅行を元気に終えることが出来たようにさえ思う(言い過ぎ)。

その他のした事とか

▼11日は、ソフトバンクの「DO YOU?」という雑誌用のお茶コラムのための写真撮影。撮影用にお茶とか道具とか持っていって指示出し。サプリ特集のコラムなのだが、俺による俺の「効能」に対するスタンスの表明は、従来のお茶の効能的な記事とは全く違って笑えると思う。原稿も、この日の内に書いた。さらに、01でiTMS特集の打ち合せも。

▼15日は、ひらたさん恵さん麻布十番竹里館小さなお茶会。恵さんの京都土産の和菓子をたべて、ひらたさんの新茶を飲んで、俺は人数が少ないからこそ持っていける高級洋菓子を持っていって、だらりんと食べて飲んで。お茶は少人数がいいなあ。帰りに、饂飩くろさわで黒豚カレー南蛮を食った。

▼後は、生命保険の契約を変更したり、iTMSについての細かい調査とかして報告書作ったり、iPod本の原稿書いたり、旅行の準備したり、昇太ムードデラックスの電話予約とか(ゲット)、ウーマンリブ公演「七人の恋人」の優先予約とか(ゲット)。

ポケパークとか愛・地球博とか

▼17日〜19日で、家族三人、名古屋へ旅行。家族で泊まれるホテルがとても少ない名古屋なので、ヒルトンに泊まったおかげで宿泊費が突出する旅行になってしまったけれど、その分、居心地は良く、廉は「ホテルにずーっといてもいい」と言い出すほど。ともあれ、随分久しぶりの家族旅行(3年ぶりくらい)。しかし、俺はほとんど完徹状態で出発。

▼17日は、昼に着いて、ホテルに行ってラウンジで無料のアイスコーヒーとか紅茶とかお菓子とかいただきながら、部屋の用意が出来るのを待つが、少し時間がかかるというので、ホテルのレストランで軽くパスタとか食ってから、荷物だけ預けて「ポケパーク」へ向かう。ポケモンのテーマパーク「ポケパーク」は、新幹線の窓から見たりしていると、何ともショボイ遊園地に見えたのだが、中に入ると、この世のものとは思えないような、やたら幻想的な空間だった。廉は、もうこっちが驚くくらいテンションが上がって、一人で色んなアトラクションに乗って喜んでいる。一人っ子だから、コーヒーカップとかも一人で乗ってはしゃいでいるのは哀しいような気もするが、本人は気にしてないようだった。観覧車とかは一緒に乗ったし。それにしても、アトラクションに乗るのにはEdyで支払うのだけど、これが金銭感覚を狂わせる。CR導入直後のパチンコ屋みたいな感じで、気がつくと大金を投入しているという感じ。怖い。アトラクションに乗れば、オリジナルのポケモントレカがもらえるというのも上手い。立体映画は、アニメと3DCGを上手く組み合わせて、キャプテンEOクラスの立体映画になってたし、インターネットと連動する「ポケモンわくわくサファリ」みたいな凝ったアトラクションもあって、楽しい遊園地ではあった。夜は涼しくなって人も減って、乗りたいアトラクション全部回っても、結局、「ポケモンわくわくサファリ」に50分くらい並んだ他は、全部10分以内の行列で済んだ。帰りに、ホテルの向かいにあった世界の山ちゃん手羽先の唐揚げとかどて焼きとか食って、ホテルでは、倒れるようにして寝る。

▼18日は、のんびりと朝食ビュッフェとか食べて、昼前頃駅に。そこから愛・地球博へ。会場へは名古屋駅からの直通バスで行く。出発時間直前に行って、ゆっくり座れて30分で会場に着くのでとても快適。乗り換え無しだし。で、地球博は広かった。暑かった。人が多かった。といっても、午後からのんびり行って、最大50分程度の行列だけで、「冷凍マンモス」を見て、「キッコロゴンドラ」に乗って、ドイツ料理食って、「イギリス館」見て、「ワンダーホイール展・覧・車」に乗って、「ワンダーサーカス電力館」見て、「超電導リニア」の展示車両に乗って、「自転車タクシー」乗って、「グローバルトラム」で夜の会場を一周して、土産物屋でお土産買って、ホテルで晩飯食って、11時前には寝てたのだから、上手く回ったと言ってもいいのではと思う。色々あって事前予約が一つもとれなくて、それでも余裕でこれだけ回ったのだった。「日立グループ館」だけ心残りか。「キッコロゴンドラ」は、メチャクチャ楽しいので、是非。しかし、こういう所で行列に並んでると、色んな人間模様が見えて面白い。

▼19日は、昼にチェックアウトして名古屋港水族館へ。しばらく行かなかったら、新しい建物とか出来てて、シャチとイルカがやけに充実した水族館になっていた。シャチはデカイ。相変わらず、室内のペンギンが面白い。名古屋駅に戻って山本屋総本舗の味噌煮込みうどんを食べてから、新幹線で帰京。新幹線では爆睡。東京に着いたら、丸ビルの満点星でオムライス食って(かみさんはハヤシライス、廉はシーフードグラタン)帰宅。草臥れたが、我が家にしてはちゃんと動いた旅行だったと思う。廉はとても楽しかったようだし。いずれにせよ、多少の無理をしないと旅行って行けないもんではあるのだから、行くと決めたら無理はするのだった。それだけのことはあるし。面白かった、色々。