猫と庄造と二人の女とタイガー&ドラゴン

▼午後は、日経01の特集用に、三田の日本情報安全管理協会へ取材に行く。三田駅は慶応大学方面とNEC方面にしか出たことなかったので、ちょっと迷いつつ現場へ。NPO法人の日本情報安全管理協会は、中々好き勝手やりつつ、ちゃんと情報保護に取り組んでいこうとしている楽しそうなところだった。ただ、まだ手探り段階で、こちらで聞きたかった疑問は、向こうでもこれから取り組むところだったりして、この分野がまだどれだけ遅れているかということだと思う。しかし、局長も課長も面白いし、頭の良い方々だったので、話は面白く取材は予定を越えて2時間以上居座ってしまった。

▼三田から表参道へ。観劇なので、ちょっと軽く食べるものを買っておこうとしたが、青山劇場周辺は意外に食べやすくて美味しくて腹持ちがするものって売ってない。どうせなら、このあたりでしか買えないものがいいしなあとか思って見るけど、カフェ・コムサのデカいケーキをトランペットが欲しい黒人の子供の集団のようにして見てる女子高生を眺めつつ、結局ピエール・エルメ・パリで「モワルー・ショコラ」のパッションフルーツとフランボワーズを購入。青山ブックセンターで「シネマの快楽」「奇想の図譜」「小説真夜中の弥次さん喜多さん」「この馬に聞いた!大外強襲編」を購入。

▼時間が来たので青山円形劇場へ「月影十番勝負第九番『猫と庄造と二人の女』」を見に行く。谷崎潤一郎の原作を内田春菊が脚本にして、木野花が演出、高田聖子が主演し、土屋久美子、中谷さとみ、利重剛が演じる小さな芝居。何故か、e+の得チケで半額で見られるというので申し込んだのだが、何と受け取ったチケットは最前列。足下を、土屋久美子利重剛が足を踏まないように凄く気を遣いながら通り過ぎる。内田春菊の脚本は、舞台を現代に移し、猫に喋らせるという大胆なもの。ただ、猫との対話に関してはかなり気をつけて書いてあって、人間のモノローグと猫の感想が交差するようにも、対話しているようにもとれるように作ってあった。で、時々シンクロした?という瞬間があるように。内田春菊という人は、基本的に凄まじい技巧派だと思っていたのだけど、今回の脚本でかなり確信した。フリが上手いよなあと思う。そのテクニックの粋を尽くして男への嫌がらせのようにして書かれたシナリオを受け取った木野花は、そのトゲを上手い具合にオブラートに包む演出を施し、さらに高田聖子が笑いとペーソスにならない切なさで演じていく。舞台上にも三人の女(猫含む)がいて、裏にも三人の女がいて、谷崎潤一郎の「いじめられた方が勝ち」に挑んだような芝居だと思う。劇団☆新感線では比較的後ろでヘンな事をしている印象の中谷さとみの、竹刀をふるう時の足さばきとか、足音を極力消して、しなやかに、でも女性的なセクシーにならないように身体をくねらせる土屋久美子とか、決定的な打撃は絶対食らわないような利重剛のふにゃふにゃ具合とか、共演者をいかに笑わせるかだけを考えているような高田聖子のギャグとか、モロにそれを食らって口元がヒクヒクしている土屋久美子の可笑しさとか、小さな所も最前列だからとても良く見える。微妙に身につまされながら、大笑いした。原作は随分前に読んだきりなので覚えてないし、映画もいくつかのシーンだけを思い出せる程度で、今回の内田春菊の、最終的に登場しない男の母を全ての元凶と見なし怪物と見なし、その排除がゆっくりと自体を解決に向かわせるというラストシーンが、原作をどの程度弄ったものかの判断はつかない。でも、まあそこに責任を持っていくことに異論がある女性はもしかしたら少ないかも知れないという怖さというか運命というかは確実にありそうで、そこが男性作家の谷崎潤一郎と女性作家の内田春菊の違いなんだろうな。

▼一緒に行った恵さんにたねやの蓬団子をもらい、俺のモワルー・ショコラを渡して、歩き食いしつつ渋谷へ。パスタ食いながら例によってのバカ話(主に「東京の中華スイーツ」という本についてだったけど、この本については別途書く)をして帰宅。ラストオーダー時に、ドリンクバーで飲みたいのがあったらコップいくつ使ってもいいからまとめ取りしていいと言われたのが面白かった。

▼かみさんのPTA話が色々と面白く、延々と聞いて笑う。あんまり面白いので仕事も何もそっちのけで喋っていた。

▼TBSのテレビドラマ「タイガー&ドラゴン」第一回目「芝浜の巻」を見る。面白い。コレ本当に面白いドラマだ。でも、問題は前半の落語の筋を説明する部分。あそこに乗れるかどうかで、このドラマが楽しめるかどうかが決まってしまう。西田さんに女装させたりして飽きない工夫がされているし、ドラマに不要な部分は刈り込んであるし大丈夫だとは思うものの、落語ファンとしては落語部分のせいで視聴者が離れるんじゃないかとドキドキするのだ。ただ、このドラマが上手く行けば、最終回の頃には落語ブームが起きるかも。今回気になったのは長瀬智也の落語部分の、何ともいえない良い感じと、本来落語の天才という設定の岡田准一の落語部分の「真面目に頑張ってる感じは分かるのだけど、イマイチ地味で面白みが無い感じ」の落差。まあ、ここは岡田君の健闘に期待するしかないけど、少なくとも今回は、ドラゴンの影は薄かった。しかし、ジェンガの使い方とか、伊東美咲の使い方とか、無駄な特殊効果の面白さとか、ちょっとしたセリフ、「贔屓にしてる前座がいてさあ」とかの良さとか、脚本も演出も一丸となって面白い。ここ一年くらい久しくなかった、本気で毎週楽しみな連続ドラマの登場が嬉しい。宮藤官九郎脚本のドラマとしても、最高傑作になりそうな感じだし、視聴率的にも成功して欲しいなあ。スペシャルの「三枚起請の巻」のような派手なドラマでなかった分、地味だし、一般性も下がっていたけど、しみじみ面白かったし、本当に良く出来てた「芝浜の巻」だった。次回「まんじゅう怖いの巻」絶対見逃すな。