「暴夜幻想譚」と「世界の終わりの魔法使い」とケンカチャンピオン

東雅夫「伝奇ノ匣8 ゴシック名訳集成 暴夜幻想譚」(学研M文庫、1700円)を読む。矢野目源一による本邦初訳版「ヴァテック」と、小泉八雲夏目漱石も愛した「シャグパットの毛剃」を二人の教え子である皆川正禧が翻訳したバージョンの二編を中心にした、アラビアンゴシック集。「ヴァテック」は前に読んだ覚えがあるが、「シャグパットの毛剃」は不勉強にも今回が初読。確かに面白い。メチャクチャだ。髪の毛一本切るのに、これだけの壮大な物語というのも凄いけど、無駄に精密な細部の描写がまた笑う。笑えるのは書き手の想像力が本当に壮大だから。小説ってコレだなあ、と思う。こういうのが読みたいのだ。まあ、ちょっとシツコイんだけど、そのしつこさもまた非凡。エキゾチシズムとかオリエンタリズムとか、そういうのは、実は後付けの幻想か、というくらい、ここにあるのは小説であった。「ヴァテック」も相当だけどね。小泉八雲ではないが(氏の東大での「シャグパット」に関する講義録も収録されていた)、多分、何度も読み返すことになるだろうな、と思う。しかし、この「伝奇ノ匣」シリーズは充実してる。まだ手に入る今の内に、とりあえず全冊揃えることをオススメしたい。まだ8冊だし。9冊目は吸血鬼幻想。これも楽しみ。
▼で、今回、「伝奇ノ匣8 ゴシック名訳集成 暴夜幻想譚」を読んでつくづく思ったのが、訳文の重要性。つーか、やっぱ小説は文体なのだ。物語は文体が作ると言ってもいいくらい。その意味で、皆川正禧訳の「シャグパット」は名品。「指輪物語」を瀬田貞二の訳で読める幸せみたいなもんで。そういう意味でも「ゴシック名訳集成」というのは貴重な仕事。
▼その勢いで、古川日出男の「アラビアの夜の種族」を買いに本屋へ。意外に見つからず、マンガの新刊とか文庫の新刊で荷物がいっぱいになりつつ、本屋を巡ってルミネのBook1stでようやく購入。

アラビアの夜の種族
古川日出男

出版社 角川書店
発売日 2001.12
価格?? ¥ 2,835(¥ 2,700)
ISBN?? 4048733346

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▼買ってきたマンガをまとめて読む。まずは、車田正美「リングにかけろ2 15」集英社、505円)。電車の中で読んでて泣きそうになって困った。麟童がハリケーンボルトをおぼえるという展開はいいなあ。続いて、ゆうきまさみ「鉄腕バーディー 8」小学館、505円)。抜きのリズムは相変わらず良いけど、物語はどうなんだ。方向が分からん。で、迷った揚げ句、結局買ったのが、秋本治「こち亀千両箱」集英社、933円)。こち亀の膨大なエピソードの中から両津勘吉の少年時代のエピソードに絞ってセレクトされた作品集で、オール4色に書き直されていたり、改稿されていたりする部分が多くて、それで買ってしまったのだった。色使い上手い。
西島大介世界の終わりの魔法使い河出書房新社、1200円)も読んだ。西島大介の絵というのは、見るたびにしみじみ凄いと思うのだ。デザイン的のようでデザインでなく、谷岡ヤスジ系の線の天才というわけでもなく、萌えはあるようなないような(でも、この作品の魔女サン・フェアリー・アンの包帯は、やっぱそういう要素だとは思うが)、乾いているけどセンチメンタルだし、構図の気持ち良さはマンガとしては類を見ないし、猫はどの作品でも全部同じ顔だし、物語も知ってるような、そうでもないような。かしぶち哲郎の曲みたいな感じか。この「世界の終わりの魔法使い」という話は、しかし、こういう世界の物語を、こういう風に終わらせたのは初めて読んだと思う。凄いと思う。このパターンで、こういう終わらせ方が出来るというのが嬉しかった。こういう突破の仕方があるのかー、とか。
世界の終わりの魔法使い(九竜コミックス)
西島大介

出版社 河出書房新社
発売日 2005.02
価格?? ¥ 1,260(¥ 1,200)
ISBN?? 4309728464

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